個性と女性と母性

文字数 1,258文字

 前だけを向いて人生を走ることに疲れた時、あるいは今までとは違う景色の中に入り込んでしまった時、それを打開するためには、どうしても自分と向き合わなければ解決しないことがあると思います。もちろんそれから目を背けて、考えないようにすることは簡単です。しかしいずれ、特大のブーメランになって返って来るかもしれません。かといってもしかすると明日になれば何か変わるかもしれませんし、誰かが助けてくれるかもしれません。でも結局、自分に目をつむったままでは何も変わらなかった――そういう経験はないでしょうか。

 そんな時によく目にするのが「自分らしく」「自分に合った」「自分なりの」という言葉ですが、これは「自分を知る」という、とても難しい作業から始めなければなりません。なにせ自分の考える自分ですから、客観性に乏しいのは当たり前で、過小評価や過大評価になることもしばしば。だからこそ人は自分を測る基準を探し、手元ですぐに他人の反応が得られるSNSの「いいね」などに過剰な価値を見いだしてしまうのかもしれません。しかしこれがどうにも、オトナになってからもらう「成績表」のような気がして、あまり好きになれません。そもそも評価のスタートが「自分ではない」時点で、本当にそれが「自分を知る」ことになるのか怪しいものです。

 そこで本シリーズの第四弾には、女性が人生を振り返り、あらためて前を向いて進む時の基準のひとつになればと思い、自身の内側を三つに区切った「三つの性」をテーマに選びました。もちろんこれは医学的な分類でも生物学的な分類でもなく、サブタイトルに掲げた「個性」と「女性」「母性」という、人それぞれが異なる割合で持つ「三つの内面性」のことです。クリニック課に【女性相談窓口】を設置したことをきっかけに、主人公の奏己はこの「三つの性」について、女性はそれらの配合バランスを変えながら――時にはひとつに絞ることはあっても――決してどれも失うことなく持ち続けたまま、人生を送っていくのではないかと考え始めます。

 今作では主に、女性疾患を取りあげています。前三作に引き続き第四作も手に取っていただいた方たちにとって、奏己たち総務部クリニック課の物語が「自分を知る」ための些細なきっかけになればと、心から願っています。



藤山素心(ふじやま・もとみ)
広島県出身。東京都在住。医師。2017年にホビージャパン主催のHJ文庫大賞(現:HJ小説大賞)で金賞を受賞。以後は「江戸川西口あやかしクリニック」シリーズ(光文社キャラクター文庫)、「おいしい診療所の魔法の処方箋」シリーズ(双葉文庫)、「はい、総務部クリニック課です。」シリーズ(光文社文庫)、『呪ワレ者』(マイクロマガジン社)など、一般小説から児童書まで幅広く執筆している。

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