『〈銀の鰊亭〉の御挨拶』の文庫の御挨拶

文字数 1,082文字

 レッド・へリングという言葉はミステリファンの方にはもうお馴染の言葉でしょう。そもそもの意味は〈(にしん)の燻製〉なんだそうですが、どういうことでこの言葉がそうなったのかは諸説あるみたいでよくわからないのですが、要するにミスディレクション、偽の手掛かりという意味合いです。僕は生粋のエラリー・クイーンのファンなので、作品中に出てきたその言葉を知った中学生の頃から〈何故鰊?〉とずっと思っていました。
 で、僕は北海道出身で在住の身なので、鰊と言えば〈鰊御殿〉です。何か最近は大人気の某アイヌの冒険活劇浪漫マンガにも出てきたので、それで知った方も多いようですけど、僕らは子供の頃から北海道と鰊の結びつきについてはいろいろ学んでいたんですよ。
 で、鰊御殿です。
 はっきり言ってもう〈館〉ですよ〈館〉。ミステリファンが泣いて喜ぶ舞台設定ですよね。
 この建物をモデルにして何かに使えないのかなぁと薄ぼんやりと考えていたことを、この物語で使わせてもらいました。最初はそれこそ〈館ミステリ〉みたいにして、鰊御殿そのものを惨劇の舞台やら仕掛け満載にして主役にしようかなぁ、なんて思っていたのですが、全然違う感じになってしまいました。
 実際に北海道にある〈鰊御殿〉とは少々趣が違う感じに設定しましたが、元々は〈鰊御殿〉だった〈青河邸〉が高級料亭旅館〈銀の鰊亭〉です。主人公は、そこが母親の実家である大学生の光。そして現在の〈銀の鰊亭〉を切り盛りしている若女将で光の叔母である文。過去に〈銀の鰊亭〉で起こったある事件の謎が、大学入学と同時にそこに住み始めた光に降りかかります。そしてその事件の中心にいた文にも。
 ミステリの体裁を取りながらも、光の家族を中心にした群像劇になっていると思います。愉しんでいただけたら嬉しいです。



小路幸也(しょうじ・ゆきや)
北海道生まれ。広告制作会社を経て、執筆活動に入る。2002年「空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction」で第29回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。「東京バンドワゴン」シリーズ、「マイ・ディア・ポリスマン」シリーズ、「花咲小路」シリーズ、「駐在日記」シリーズ、「国道食堂」シリーズなど著書が多数ある。近著に『花咲小路二丁目の寫眞館』『ハロー・グッドバイ 東京バンドワゴン』などがある。

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