軽井沢と迷宮

文字数 843文字

 ことの始まりは昨年の春。軽井沢の浅見光彦記念館で、次の特別企画展について考えていたときです。二〇二三年は名探偵・浅見光彦の生みの親である軽井沢のセンセこと内田康夫が、この地で執筆を開始してちょうど四十年。そこで、今年の特別企画展は「浅見とセンセと軽井沢」と題して、地元・軽井沢をとりあげることが決まりました。
 それからまもなく、「須美ちゃんは名探偵!?」シリーズ第三弾のお話をいただき、「須美ちゃんも、たまには北区を飛び出して軽井沢に旅行でもしたらどうだろう」という流れで、『軽井沢迷宮』というタイトルが浮かびました。
 当事務局は軽井沢の浅見光彦記念館内にあります。第二作までと違い、執筆にあたりテーマを探すのも、取材をするのも地元なら楽だし、初の長編に挑戦してみよう……などと簡単に考えたのは大間違いでした。あれやこれやと考えを巡らせても、見慣れた景色に何を書けばよいのやら--と、逆に迷ってしまいました。
 そんなある日、不意にいつも当たり前に眺めている浅間山からあることを閃き、全体のストーリーが浮かび、ようやく書き始めることができました。
 ちなみに内田康夫はプロットを作らずに書き始める作家でしたので、物語が大詰めを迎えたものの著者自身、誰が犯人なのか分からないことがよくありました。そんなときは、うんうん唸りながら動物園のクマのように仕事場を歩き回り、「犯人が分からない。このままでは完全犯罪になってしまう……」と苦しんでいたそうです。
 犯人も結末も決めずに書き始めて、迷宮入りすることなく最終的には無事に着地する。しかも、それを一〇〇を超える長編でやってのけた軽井沢のセンセの凄さを、『軽井沢迷宮』を書いて、よりいっそう強く感じました。



内田康夫財団事務局


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