人はなぜ、ダイエット商品を買うのか

文字数 1,137文字

ダイエットサプリの広告とか、つい見ちゃうんですよね。
ネットを泳ぐ私の前に立ちはだかってナイスバディ写真を見せてくる、風俗店の呼び込みみたいなあの広告。鬱陶しいけど、見てしまうんです。
もちろん、疑ってかかってるんですよ。「効かねえよ、こんなもん。そんな劇的にやせる成分が見つかったら、利権を奪いあう製薬会社が関ヶ原で血みどろの合戦繰りひろげるわッ」と、胸中でつぶやいているのです。
そんな私ですが、若かりし頃。
体脂肪を溶かして体外にドバドバ排出しまぁすという、生体のメカニズムを無視したサプリの謳い文句を、まんまと信じ込んだことがありました。
三度の食事のたびに必ず飲んでおりまして、外食の際に忘れたときは鳴ってもいない電話を耳に当て「もしもーし」と言いながら挙動不審に席をはずしドラッグストアに飛び込みました。海外赴任に大量に持っていったときなんかは、空港で「これはなんだ」と質問され脂汗をかきながら英語で説明したものです。お金をいくら使ったんだろう………怖くて計算したくもありません。
ある日、そのサプリについて厚労省が「こんなの効かないです」と見解を示したという記事が、ネットニュースに掲載されました。その日から数ヶ月、株で2億円溶かした人と同じような顔つきで日々を漂うこととなったのです。金は消え、残ったのは、いつのまにか溜まった脂肪だけ。
それなのに、なぜ、ダイエット広告に食いついてしまうのか。
考えた末、「免罪符を求めているからなのかもしれない」という解答にたどり着きました。
誘惑に負け食べてしまった罪悪感から、「神さま、お金出しますから太らせないでください」と、泣いて伏してすがる気持ち。
でもこの、罪悪感ってなんなんでしょうね。
食べることも太ることも、別に罪ではないはず。小太りぐらいのほうが寿命が長いって言いますし。
免罪符というからには、これは宗教なのでしょう。やせてないとダメ教。本来なら罪じゃなくても、信者にとっては罪なのでしょう。そして、ラクしてやせようとサプリを買った私に神さまは、ばっちり脂肪をつけてくれるのでしょう。



歌川たいじ(うたがわ・たいじ)
1966年東京都生まれ。2010年『じりラブ』でデビュー。自らの生い立ちを記した『母さんがどんなに僕を嫌いでも』が映画化されるなど話題を呼び、その後も次々と作品を発表。年齢層や性別を問わず、幅広い読者に支持されている。主な作品に『花まみれの淑女たち』『バケモンの涙』などがある。

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