人生空回りエンターテインメント『選ばれない人』

文字数 1,128文字

 人生は選択の連続だと思います。事の大小や当たりハズレにかかわらず、日々の選択を繰り返し、無数の選択が積み重なった末の「今」。それが「自分」ではないかと思うのです。
 そんな中、人生を大きく左右する選択として、受験や就職活動があると思います。そして、これらの選択には「選ぶ」の前に「選ばれる」ための壁が待ち受けています。特に就活は、受験の点数のような明確な基準が見えません。だからこそ「選ばれない」日々が続くと、苦しい気持ちに陥りやすいのではないでしょうか。就職氷河期世代の私もその典型例でした。
 本作『選ばれない人』は、就活期に(かつ)(とう)する学生たちと、就活の経験すらない、ちょっとアウトローな「おじさん」の人生が交差する、化学反応のような物語です。
 主人公・(はち)()(てつ)(ろう)は、選ばれることに魂を売った若者です。とある出来事をきっかけに就活に全てを捧げる決意を固めて生きています。就活の成功が人生の勝利と確信する、少し(こじ)らせた大学生です。服装は常にスーツ、同級生や下級生にもビジネス敬語で接する徹底ぶり。紳士的な言動と微笑みの仮面の裏で内心、同級生はみんな就活の敵だと本気で考えています。成績優秀で人当たりもすこぶる良いけれど、真の友だちを作らず、本質的には誰にも心を開いていません。そんな徹郎が所属するゼミに、教授の怪しいツテで「おじさん」が入ってきます。徹郎の就活プランが狂い始めます。
 多くの場面で「選ぶ」より「選ばれる」に気を取られがちな気がします。しかし、結局、最後に選ぶのは自分だと思うのです。タイトルの『選ばれない人』には、様々な意味や思いを込めました。
 帯に「人生空回りエンターテインメント」と銘打ったこの物語。就活一筋の徹郎や、(ほん)(ぽう)なゼミの仲間たちが「おじさん」との出会いでどう変わっていくか。そして徹郎の行く末と物語の終わりにそれぞれが下す選択。そのあたりも読みどころです。皆様、ぜひご一読ください



安藤祐介(あんどう・ゆうすけ)
1977年福岡県出身。2007年『被取締役新入社員』(講談社文庫)でTBS・講談社第1回ドラマ原作大賞を受賞。’19年『本のエンドロール』(講談社文庫)が本屋大賞で11位。近著に『仕事のためには生きてない』(KADOKAWA)、『崖っぷち芸人、会社を救う』(中公文庫)、『六畳間のピアノマン』(角川文庫)などがある。

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