だいすきの威力

文字数 994文字

「あのねえ、れいちゃんのことだいすきなの」
 三歳の姪にもじもじと告げられた時、私の頭にはうれしいより「なぜだろう?」という疑問が先行した。会える機会はそう多くはない。もちろん生まれた時からかわいがってきたが、そんな最上級の告白に見合うような特別なことをした覚えはない。私は理由を探した。でもなくてもいいのだ。一緒に遊ぶ、ごはんを食べる、そんな当たり前のことから彼女の「だいすき」は生まれるのだから。
 大人になると人の感情を疑うことが増える。表情の裏を読み、差し障りのない言葉を選び、好意より利益を優先することもある。いつの間にかどこかに置き去りにしたキラキラしたピュアな心。姪の無垢な思いに、泣きたいくらい愛しさが胸に溢れた。いつかこの感動を物語にしたい。それが『社内保育士はじめました』が生まれたきっかけだった。主人公の梓咲は私と同じ会社員。けれど突然社内に新設された保育ルームへ異動となり保育士に。企業主導型保育園は企業が作る保育施設。従業員の仕事と子育てをサポートするのが目的のため、企業ごとに多種多様な保育サービスを展開しているのが魅力だ。だが特殊な環境だからこその問題もある。感情表現が苦手で他人と関わるのが苦手な梓咲も、会社や保育園で起こるさまざまなトラブルに巻き込まれる。
 しかし当初、保育の知識なんて私には皆無だった。なんとか形になったのは、長年保育園の園長先生を務めていた方々、地元の企業主導型保育園の先生方、たくさんの方とご縁が繋がったおかげだ。取材を通して実感したのは、皆さん子どもたちが、そして保育の仕事が大好きだということ。不器用な梓咲も子どもたちからもらった「だいすき」で変わっていく。好きの威力ってすごい。
 そんな新米保育士奮闘記も今回最終巻を迎える。ここまで導いて下さった方々に感謝を。梓咲たちの成長を、そして彼女が見つけたやさしく愛しい世界を最後まで見届けて欲しい。



貴水玲(たかみ・れい)
群馬県出身、1981年生まれ。2014年『妖精童話(ルビ・フェアリーロマン)~聖約の乙女は恋の扉を開く~』(ネオスブックス ブロッサムサイド)でデビュー。その他の著書に『宝珠の姫と楔の王 ~運命の恋は蓮の花に彩られて~』(ネオスブックス ブロッサムサイド)がある。

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