大阪は日本語の通じる外国

文字数 938文字

 ――というジョークを聞いたことがある。サラリーマン時代には実際に住んでいたので、これがジョークであるのは承知の上で実感もしていた。暴言を許してもらえれば大阪人には明らかにラテンの血が流れており、岸和田のだんじり祭は大阪版リオのカーニバルである(大偏見)。
 新たなシリーズを立ち上げるにあたって大阪を舞台に選んだのは、僕の偏見と無関係ではない。県民性、文化、言葉、街並み、大阪は全てのものが豊かで活気に溢れている。だが、こういう場所に他シリーズに登場しているような元気なキャラクターを放り込んだら花登筐の小説になってしまう。逆に無表情かつ感情の読めないキャラクターを放り込んだら何かしらの化学反応が起きるのではないか。
 こうして「能面検事」の設定が整った。設定さえ出来上がれば後は楽なもの――では決してないが、何とかするのが小説家の意地というものである。
 ただし舞台を大阪にしたことで楽になった部分は確実にあり、その一つが街並みの描写だ。とにかく書いていて楽しい。乱暴に言ってしまえば、街の描写が住民の描写に重なるような感覚があり、ついつい筆が走る。時々、滑る。
 登場人物の台詞も書いていて楽しい。とにかくポンポン会話が弾むから、あっと言う間にページが進む。最近の僕のテーマは「読むより早く書く」ことなので、このシリーズは合目的でもあるのだ。
 幸い、舞台となった大阪の地でもこのシリーズは好感をもって受け容れられていると聞く。ありがたやありがたや。版元の光文社から打ち切りを宣告されない限りこのシリーズは続いていくはずなので、どうぞよろしく。



中山七里(なかやま・しちり)
1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。著書に『スタート!』『秋山善吉工務店』『こちら空港警察』『おわかれはモーツァルト』『彷徨う者たち』『テロリストの家』『有罪、とAIは告げた』『ヒポクラテスの悲嘆』など多数。

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