警察小説のこれから~『PIT 特殊心理捜査班・水無月玲』に寄せて

文字数 1,083文字

 インターネットの発明と発展によって、時代の進化が加速している中(異様なスピードであることは強調しておきたい)、ビッグデータに興味を持つようになったのは、ひとえに私がバリバリの文系で、数字に弱いからであります。
 本作中でも触れていますが、今後警察機構そのものが大きく変わり(変わらないとしたら、それは政治的理由によります。既得権益を守りたいと考える人はどんな組織にもいますので)ビッグデータの収集と分析により、犯人逮捕までの時間が短縮されるでしょうし、可能性としてはあらゆる犯罪を未然に防ぐ時が来るかもしれません。
「そんなSF映画みたいなこと言って」と笑う方もおられるでしょうが、意外と早くそうなるだろうと個人的には考えています。何しろ進化(深化)のスピードが尋常ではないので。
 ただし、いわゆる「刑事のカン」がまったく無視されるかというと、そうはならないだろうと予想しています。人間の脳はAI以上の性能を持っていますので(今のところ、ですが)下手にAIに頼るより効率的だと判断されることもあるでしょう。
 本作では「ビッグデータ」と「刑事のカン」=「プロファイリング」という対極の立場から(プロファイリングと大仰に言いますが、アレはあくまでも捜査支援の一環で、実は科学的とは言えない側面が強いのです)ある殺人事件を捜査する、という設定にしました。
 書いていてつくづく思ったのは、「警察小説が書きにくくなった」ということで、これからの警察は推理や推測に基づく捜査より、膨大なデータの処理に重点が置かれ、パソコン一台で事件を解決するようになると確信したからです。一般的には非常にいい時代になったわけですが、作家にとってはやりにくいことになったなあと。これからどうなるのか、興味津々であります。



五十嵐貴久(いがらし・たかひさ)
1961年東京生まれ。成蹊大学卒。出版社勤務を経て2001年『リカ』で第2回ホラーサスペンス大賞を受賞してデビュー。’07年『シャーロック・ホームズと賢者の石』で第30回日本シャーロック・ホームズ大賞受賞。警察小説、時代小説、青春小説、家族小説など幅広い作風で映像化も多数。著書に「南青山骨董通り探偵社」シリーズ、『こちら弁天通りラッキーロード商店街』『天保十四年のキャリーオーバー』『SCS ストーカー犯罪対策室(上・下)』『スイム!スイム!スイム!』『命の砦』『波濤の城』『バイター』『リフレイン』『ウェディングプランナー』など多数。

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