『〈磯貝探偵事務所〉からの御挨拶』文庫化の御挨拶

文字数 987文字

 前作『〈銀の鰊亭〉の御挨拶』の、まさにラストシーンで「刑事を辞めて探偵事務所を開くかも」と、言っていた磯貝公太が本当に札幌に探偵事務所を開いたところから物語が始まります。
 磯貝というキャラクターは前作では本当にサブキャラのつもりでした。主人公は大学生の光であり、その叔母である文とのいわゆるダブル主人公体制で、磯貝はその脇に佇む立ち位置だったはずなのですが、図らずも妙に存在感が出てしまったのです。
 物語は連載だったので、書いている最中から「なんだったら磯貝をこのまま主人公にできるな」と思いまして、実は「探偵になる」と言わせることを決めたのも前作の最終回を書く直前でした。
 自分で作り上げたはずのキャラクターが勝手に動いてしまう、というのは本当によくあることなのです。磯貝はその典型でしたね。サブキャラゆえに練り上げ方が若干弱かった設定もありましたが、それが却って隙のある愛されキャラにもなったと思います。
 そういうことで、主人公になった磯貝は私立探偵となり、ダブル主人公であった光と文がそのサポート役に回るという体制になった新たな〈探偵事務所〉の物語です。
 刑事時代の親しい同僚が探偵事務所の開設祝い代わりに持ってきてくれた依頼は、偶然にも探偵事務所と同じビルで商売を営む女性の夫の〈失踪〉に関わるもの。見つかるはずもないであろう失踪人捜しは、大学生になった光が出会う後輩の女子大生の趣味から意外な方向へ転がっていきます。
 札幌市とその隣町の江別市に、〈銀の鰊亭〉がある小樽市。生まれ住む北海道の三市が主な舞台になる『〈磯貝探偵事務所〉からの御挨拶』。季節が春夏なので北海道らしさはあまり出ていないかもしれませんが、楽しんでいただけると嬉しいです。



小路幸也(しょうじ・ゆきや)
北海道生まれ。広告制作会社を経て、執筆活動に入る。2002年「空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction」で第29回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。「東京バンドワゴン」シリーズ、「マイ・ディア・ポリスマン」シリーズ、「花咲小路」シリーズ、「駐在日記」シリーズ、「国道食堂」シリーズなど著書多数。近著に『キャント・バイ・ミー・ラブ 東京バンドワゴン』などがある。

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