キャラクター“が”生んだ物語

文字数 1,455文字

 作家は読者に対し、そのキャラクターがどういう人物なのかを察してもらうために、さまざまな情報を提供します。
 年齢、性別、体型、髪型。さらには目の形や口調、生い立ちなど。
 ストーリーに対する影響度が大きなキャラクターほどその情報量は多く、また細かくなり、場合によっては履歴書のようなものを作ることもあります。
 ただ、最終的にキャラクターが完成するのは読者の頭の中です。
 よく、キャラクターは出版されたら作者の手を離れるといわれますが、ページをめくりながら、それぞれのキャラがどんな表情、口調で動き回っているのか――その最終決定権を、読者は持っています。作家はキャラクターを生み出しますが、いちど手を離れると、思惑通りに伝わっているかどうかは読者の想像に委ねられるわけです。

 さて、キャラクターを決定づけるもうひとつの要素。それは映像の力です。俳優さんに演じてもらうことにより、ビジュアルという最強の情報を得たキャラクターのイメージは決定的なものになります。
 以前、『ハクタカ』というタイトルでドラマ化された著作に「()(づか)(しん)(さく)」という刑事がいまして、原作のストーリーにおける序列は4位でした。
 いなくてもストーリーは成立しますが、作品の雰囲気作りには必要な“うっかり八兵衛”のような立ち位置で、彼の属性や背景の設定を考えてはいたものの、原作には多くが反映させられませんでした(影響度がさほど大きくないキャラに多くの文字を割くと読者が混乱するので)。
 そのため兎束は、原作においてはただのストーカーチックな頼り甲斐のない新人刑事、という雰囲気になっていました。
 それが映像化に際し、この役を(あか)()(えい)()さんに演じていただいたことで、作者の想像を超えたキャラクターに変貌を遂げました。
 兎束というキャラクターは作者の元から自立し、多くのファンの方々のものになったのです。親離れした子供の成長を見守るような感覚でした。
 そして、「兎束晋作の物語をもっと読みたい!」とのお声をたくさん頂戴し、今作の企画がスタートしました。
 これは、スピンオフというよりは、彼の新たな物語になります。
 単なるファンサービスではなく、ストーリー展開のために隠さざるを得なかった彼の人生を描くチャンスを頂いた、と僕は思っています。

 ところで、僕の作品(特に警察小説)は基本的に同じ舞台・時間軸を共有しているため、他の作品のキャラクターが別の作品に顔を出すということがよくあります。
 今作はその集大成ともいえるもので、兎束の脇を固める2人も、別の作品のクセ強キャラクターです。
 創造したキャラクターたちが、作者の手を離れ、お互いに影響しあいながら、また新たな物語を作っていく。
 僕はそれを、ちょっと()(かん)しながら楽しんでいます。



梶永正史(かじなが・まさし)
1969年、山口県生まれ。2014年、『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』(宝島社文庫)で第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。著書に「郷間彩香」シリーズ、『組織犯罪対策課 (しら)(たか)(あま)()』(朝日文庫)、『ドリフター』『ドリフター2 対消滅』(以上、双葉文庫)、『ウミドリ 空の海上保安官』(河出書房新社)などがある。

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