これ、SFなの?

文字数 975文字

 本作を最初に書いたのは三年ほど前です。いくつかの出版社に読んでいただきましたが、どの返答も、SFを交えているのでジャンルが難しく、うちではちょっと……とのこと。単純な恋愛小説を書いたつもりだったので、驚きました。
 これ、SF?
 SF小説は読み慣れない人には難しいと思われがちですが、未来への高揚感と、科学的な空想が融合して、読むとワクワクします。カタカナが多く、頭に浮かばない機械構造などは図解がほしいこともしばしば。脳がフル回転し、心地よい刺激をくれます。
 『火星より。応答せよ、妹』のシチュエーションは確かに特殊です。作中では火星への居住が始まっています。ですが日常生活は、ほとんど今と同じ。紙の新聞も、商店街もあります。現在でも国を越えたオンライン通信は簡単です。それが惑星間になっただけの、よくある遠距離恋愛モノです。しかし恋愛小説が好きな読者に、科学要素のあるSFは敬遠されがち。逆にコアなファンが多い本格SF小説とは程遠く、根本で躓いてしまい、このまま宇宙空間を漂うのかと半ば諦めかけていましたが、こうして上梓することが叶い本当に嬉しいです。
 会えない時間が愛を育てると言いますが、本作は育った時間が愛になる物語です。運命的な出会いや一目惚れではなく、共有と成長がゆっくり関係を紡ぎます。夜空を見上げた時、そこに宇宙が見えて、その宇宙を見せてあげたい人がいる。美しい物を見て誰かを思う感情は尊いです。恋人や家族以外の人にもそう思うことができたら、きっと世界は平和ですね。
 機を狙ってではありませんが、NASAでは火星への有人探査を目指し、来春から「火星人」なる治験者が施設で一年間隔離生活を送るそうです。書いた当時は空想でしたが、科学に追いつかれてきました。追い抜かれるのもそう遠くないでしょう。そうなるとやはり『火星より。~』はSFではなく、恋愛小説ですね。



石田祥(いしだ・しょう)
1975年、京都府生まれ。2014年、『トマトの先生』で第9回日本ラブストーリー大賞を受賞しデビュー。著書に「猫を処方いたします。」シリーズ、「ドッグカフェ・ワンノアールシリーズ、『元カレの猫を預かりまして。』『夜は不思議などうぶつえん』がある。

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